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高森明勅
2013.6.14 06:45

週刊新潮、事実無根「悠仁親王即位」記事の悪質さ

『週刊新潮』6月20日号に「『雅子妃』不適格で『悠仁親王』即位への道」なる記事が載っている。

高森ウィンドウズでもちょっと触れたが、余りにも酷い。

と思っていたら、さすがに宮内庁が内閣官房と連名で、文書で正式に「事実無根」として抗議し、訂正を要請した。

その内容は実に悪質だ。記事のポイントはこうだ。

宮内庁は雅子妃殿下の長期療養問題を解決するために、
皇太子殿下がご即位後、比較的早い時期に退位し、
継承順位第2位の秋篠宮殿下も即位を辞退、
悠仁親王殿下が即位出来るよう、
皇室典範の改正を安倍内閣に申し入れた、と。

しかもそのことは、天皇陛下はじめ皇太子殿下や秋篠宮殿下も
ご納得の上だとまで書いている。

言語道断だ。

ここまで酷い記事は、しばらく目にしたことがない。

ここに書いてあることは、何か。

記事を書いた記者が自覚しているかどうか分からないが、
この事実無根の記事が主張していることは、天皇としてのご在位に、
ご本人のご意思を明確に介在させるという、
明治・昭和の皇室典範が皇位継承の安定のために意図して
排除した考え方を、敢えて導入しようということだ。

これは皇位継承に関する、原理上の根本的転換を意味する。

あり得ないことだが、
万が一にもこのような制度改正がもしなされたら、
皇位の継承は一挙に不安定なものになりかねない。

例えば将来、いよいよ悠仁親王殿下の即位という場面で、
ご本人が即位を辞退されたらどうなるのか。

一旦、ご本人のご意思を介在させる制度化を行った以上、
悠仁親王殿下だけを例外には勿論、出来ない。

するとたちまち、万事休すだ。

我が国から天皇という存在そのものが失われることになる。

天皇を秩序の基軸とする日本社会の伝統的な在り方自体が、
たったお一人の皇族のご意思によって決定的に左右される
事態になるのだ。

また、ご本人のご意思で退位や即位辞退が可能になると、
無責任かつ悪質な週刊誌の記事などを鵜呑みにした人々が、
ご本人に働きかけて天皇の退位や即位辞退を実現させようと、
不敬不埒な署名活動やデモを活発に繰り広げないとも限らない。

あるいは、現在の皇統の危機を首尾よく乗り越えたと
仮定しての話だが、複数の皇位継承候補者がいた場合、
希望の皇族を即位させるために、
継承順位が優先する他の全ての皇族方の即位辞退を、
強烈に要請するような行動にも走りかねない。

さらに、自分たちが「支持」する皇族を何とか即位させようと、
国民の間に激しい対立が生まれることもあり得る。

そうなると、社会を安定化させ、民主主義の暴走を抑止する、
伝統ある君主制の大切な機能は完全に失われ、
社会の不安定化とポピュリズムの暴走を、
むしろ加速する事態にもなりかねない。

あるいは、退位した天皇は歴史的には太上天皇(上皇)という地位を与えられて来たが、太上天皇にはどのようなご公務を考えているのか。

天皇と太上天皇が併存した場合、国民統合の中心が分裂したのに近い印象を与える懸念はないのか。

前近代の実例では、太上天皇が複数併存したことも、ざらにあった。

前例のように次々と退位の意思が示されれば、
そうした場面も当然、出てくる。

それで、天皇の国民統合の象徴たる役割に、
いささかの支障も生じないのか。

等々。

問題は噴出する。

まさにパンドラの箱を開けるような行為だ。

そんな愚挙に、天皇陛下はじめ皇族方が賛意を表されたとか、
宮内庁がかくも愚かな提案をしたなどという、
子供でも簡単に見破れるような嘘っぱちを、
いくら週刊誌とはいえ、
臆面もなくよく巻頭に7ページも割いて載せたものだ。

今回の『週刊新潮』の失点は、メディアとしてほとんど致命的だ。

かつて、赤報隊事件の犯人を名乗った人物の真っ赤な嘘の手記を、
麗々しく掲載した時以上の大失態と言う他ない。

こんな悪質極まる記事が掲載された意図は何か?

情報源として、匿名の官邸関係者とか宮内庁幹部などが登場する。

もし彼らが実在したとして、一体、何を企んでいるのか。

そちらの方が気になる。

今後も、この種の悪質な情報操作には警戒が必要だ。

なお、雅子妃殿下のオランダへのお出ましを巡っても、
タチの悪い記事が散見されるが、
『文藝春秋』7月号の友納尚子氏のレポートは必読。
高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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